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お知らせ
これからのまちづくりを支える最新技術「都市のデジタルツイン」
2024年10月18日~20日に西新宿で最先端のテクノロジー体験ができる「スマートシティフェスタ(主催:東京都デジタルサービス局)」が新宿中央公園ファンモアタイムひろば・都民広場・11号街路下で開催され、「シン・デジタルツイン」の進化を紹介するトークセッションがイベント初日のステージで行われました。
テーマは「これからのまちづくりを支える最新技術“都市のデジタルツイン”」。
登壇したのは、大成建設(株)都市開発本部 新事業推進部の村上拓也と事業構想大学院大学の教授・(株)STYLY 取締役COOの渡邊信彦氏。取り組み紹介やお互いの好奇心が伝わってくるトークを通じて「シン・デジタルツイン」の魅力や可能性について語り合われた当日の様子をレポートします。
はじめに村上拓也が「シン・デジタルツイン」の特徴や最新の取り組みについて紹介しました。
まちづくりを革新する「シン・デジタルツイン」とは?
【村上】
「シン・デジタルツイン」は、現実の都市を双子のようにデジタル空間に再現する次世代のまちづくりツールです。新宿の超高層ビルや公園、目に見えない建物内部や地下ネットワークまで再現しています。
作り方としては、高精度なレーザースキャナーを使って都市を 隅々までスキャンし、国土交通省が提供する3D都市モデル「PLATEAU(プラトー)」やBIM(Building Information Modeling)データや点群データと統合しています。巨大な都市スケールでありながら非常に精緻に表現されています。
また、これらのデータをゲームエンジンで処理することで、精緻な都市スケールのモデルを簡単に操作できるのも特徴です。以前、近隣の小学生の方に授業で体験してもらったところ、はじめてでも快適に操作できていました。 さらに人の流れや車両の流れ、目には見えない風の動き、温度、騒音まで可視化してシミュレーションする機能や、イス、ベンチ、芝生などを直感的にレイアウトする機能もあり、デジタル空間でのプランニングや社会実験をどなたでも簡単に行えます。
そのまちの過去と未来をデジタルツインで再現する
【村上】
デジタルツインで現在の都市を再現するのも重要ですが、それだけだと「現地に行けば済む」という話になりがちです。そこで私たちは、過去の街や未来の街を再現するプロジェクトに取り組んでいます。
かつて、ここ新宿には淀橋浄水場がありました。当時の写真や航空写真がいくつか残っているので、それらをAIに学習させ、1960年頃、淀橋浄水場が閉鎖される直前の街並みや当時の雰囲気を再現しています。
それに加えて未来の街もシミュレーションしており、2040年頃に4号街路や地下通路が遂げる発展やホログラムが街を彩る未来の都市像もAIを使って作り上げています。
「シン・デジタルツイン」では、これらの過去と未来のイメージをただエンターテイメントとして楽しむだけでなく、まちづくりの実務に役立てていきたいと考えています。
続いて、渡邊信彦氏が様々な問いかけやアイデアを投げかける形のトークセッションへ進みました。
「シン・デジタルツイン」でまちづくりはどう変わる?
【渡邊】
私はエンターテインメント業界でバーチャルなものづくりしているので、ここまでリアルな見た目を再現するのがどれだけ大変かよくわかります。逆によくここまで作ったなと感心しています。これだけリアルなシミュレーションがあれば、まちづくり以外にも多くの活用法があると思うのですが、今のところ「シン・デジタルツイン」が活躍している具体的なユースケースを教えていただけますか?
【村上】
ありがとうございます。まちづくりの分野で最初に使おうと考えており、実際にプランニングやシミュレーション機能が活用されています。昨年は社会実験を行い、地域のワーカーや住民にプランニング機能を使ってもらい、オープンスペースを設計し、そのプランを実際に現実空間にフィードバックする取り組みも行いました。
【渡邊】
これまでは地図や平面上のグラフィックで公園の設計などを進めていたと思いますが、立体のデジタルツインを使うことで、利用者の目線から見たときにどのように変わるのでしょうか?
【村上】
アウトプットが圧倒的に伝わりやすくなると思います。地図上だと課題が伝わりにくい部分も、立体的に表現されることで「ここが問題だ」と視覚的に簡単に伝えることができる点が大きな違いだと感じます。
【渡邊】
一方向だけではなく、俯瞰して見たり、隣のビルからの視点で見たりと、全方位でシミュレーションができるのは大きなメリットだと思います。
リアルとバーチャルを連携させる活用アイデア
【渡邊】
建築やまちづくりには少し固いイメージがありますが、ゲームエンジンを採用している「シン・デジタルツイン」は実際にゲームに用いても違和感のないクオリティですよね。リアルとバーチャルを連携させたゲームなどへの活用については何かお考えでしょうか?
【村上】
ぜひやりたいと思っています。確かにゼネコンという立場から堅いまちづくりや建設に取り組んできましたが、こうして見ると「ゲームに使いたいよね」という気持ちが湧いてきます。パートナーがいれば、ぜひその分野にもチャレンジしたいですね。
【渡邊】
例えば、街中でしかできないアトラクションの予選はバーチャルで参加し、決勝戦をリアルで開催するようなイベントができれば、みんなが参加しやすくて盛り上がる仕組みになると思います。「勝ったら新宿に行こう」とかね(笑)
【村上】
今回のスマートシティフェスタで多くのモビリティが走っていますが、モビリティのレースをまずバーチャルで行い、決勝戦を実際に4号街路で開催するなんてことができたら、ぜひ決勝まで勝ち抜こうという熱い展開になりますよね。
【渡邊】
今はレーシングゲームで強かった人が実際のレーサーになる時代ですから、コンピューター上での操作がリアルに繋がる環境があるのに使わないのはもったいないと思います。ドローンレースもすごく向いていますよね。実際、ドローン操縦者は画面や地図を見ながら飛ばしているので。
新宿を舞台に培ったノウハウは他の都市にも展開できる
【渡邊】
毎年「シン・デジタルツイン」を少しずつ見させていただいていますが、今年は特に大きな発展がありましたね。未来と過去をシミュレーションするというのはとても面白い視点だと思います。今年は未来と過去の街を再現しましたが、今後どのような展開を考えていらっしゃいますか?
【村上】
未来と過去のシミュレーションを行ったので、次は別の都市でもやってみたいと考えています。新宿での取り組みは引き続き深掘りしていきたいですが、ここで得たノウハウはデジタルコンテンツならではの強みを活かして、他の都市にも展開できると思っています。例えば、ここで作ったシミュレーション機能を他の都市でも応用してみたいですね。
【渡邊】
例えば地方都市でデジタルツインを作りたいという話が出た場合、完成までに1年くらいかかるものなのでしょうか?
【村上】
いや、全然そんなにかからないですね。新宿は50年以上の時をかけて開発された街ですが、デジタルならおそらく50日で完成すると思います。イメージが違う場合はすぐに作り直すことも可能なので、クイックに進められるのが大きな利点だと思います。
【渡邊】
国土交通省が作っている「PLATEAU(プラトー)」というデータがありますが、それでも新たに「シン・デジタルツイン」を作ろうと思われたのはなぜでしょうか?
【村上】
端的に言えば足元周り、つまり地面の精緻さを求めた点が大きな理由です。西新宿はオープンスペースや微妙な起伏が特徴的な街です。当時の「PLATEAU」にはその部分がなかったため、自分たちで足元のデータを整備し、西新宿オリジナルのデジタルツインを作ろうと考えました。
【渡邊】
最近はバーチャルとリアルを融合させる事例が増えてきたので「シン・デジタルツイン」への注目も高まっているのではないですか。
【村上】
自治体などからの相談はかなり増えてきています。PoC(概念実証)でもいいので始めてみたいという声も多く、小さく試してみることで実際に価値を感じてもらえると思います。
多くの人に触れてもらうことで新たな展開が見えてくる
【渡邊】
これだけのクオリティで再現された街は本当に魅力的ですよね。だからこそ、どうやって一緒に取り組めるか、早速考えてみたいと思いました。今後、まちづくりにアートを絡めることってよくありますよね。「シン・デジタルツイン」を使って、アーティストや学生たちが街をラッピングしたり、アート作品を設置したりすることもできるのではないかと思います。実際にアートを街に描くのは難しいですが、ARを使えば、街がラッピングされた様子をリアルタイムで表示することができるんじゃないかと考えています。そういったことは可能なのでしょうか?
【村上】
そうですね、アートと絡めるという発想はなかったんですが、まちをアート化することをまずデジタルで試してみて「これはすごくいいね」という声が集まればリアルにフィードバックすることもありえるかもしれませんね。
【渡邊】
アートの魅力は、人々がその場所に集まって、これまでにない人の流れを生み出すことだと思います。例えば「シン・デジタルツイン」の中で描いた絵が、その場所に行けばARで見えるようにすることは、すぐにでも連携して実現できるのではないかと考えています。
【渡邊】
「シン・デジタルツイン」は建築やまちづくりなどの仕事で活用されると思いますが、私たちが取り組んでいる技術にはさまざまな使い道があり、多くの人に触れてもらうことで新たな展開が見えてくると思います。今後の展開に期待しています。
【村上】
今日こうして我々が作ったものを皆さんにお見せできて、とてもありがたく思っています。次は、ぜひもう一歩踏み込んで実際に使ってみようと思っていただけると嬉しいです。
今回のトークセッションに加え、展示ブースではデジタルツイン上で再現された「過去・現在・未来」の西新宿エリアを自由に動き回ることができるコンテンツ、1/1000スケールで再現した西新宿の模型に都市のデータをマッピングしたフィジカルとデジタルの融合を楽しめるコンテンツなどが用意され、驚きの声とともに、多くの方にまちづくりの革新を体感いただけました。ご来場いただいた皆さま、誠にありがとうございました。